2013年1月6日日曜日

強い思い(オノヨーコ)

私たちより少し前の人々は、家族と子供の平穏を何よりも大切にして生きてきましたね。そういう人生だって、内情は波打つこともあったでそうけど、でも穏やかな一生を守ることが生きがいだったと思います。

けれども今は、広く世の中や世界をつながり、私たちには、もっと大きく、エネルギーの必要なチャレンジが与えられている。ただただいままでのスタイルに従っていくのではなくて、自分で何が大切かを考え、クリエーティブな試みをする時代になりました。仕事は多岐にわたるようになるし、こんなことをしなくてはならないのかと困難を感じる日々もあるかもしれませんが、そうやって私たちは新しい時代の要求を大事にし、一生懸命にチャレンジする喜びをもらえているのです。

もちろんそれは、多くの人間にとっては随分難しいと思います。きっと怖いはず。でも、その怖さを乗り越えていって欲しい。そのために一番最初にするべきことは「イマジン(想像)」なのですね。本当に大事なことをする時には、まず頭で考え、それをリアルな映像にして自分で繰り返し見てください。自分のハートの深い所にある思いを現実にするために、何度でも確かめ、そしてその夢を人と分かち合うのです。

「一人で見る夢はただの夢」だけれど、「みんなで見る夢は現実になる」。私もそうやって仕事を実現してきました。

英国のリバプールにはジョン・レノンの育った家が残っていますが、彼の部屋はわずか3畳くらいで、とても狭い小さな小さな部屋です。両親と離別して伯母さんに育てられ、寂しさや悲しさを感じていた少年が、その狭い部屋で、自分がいつか音楽を通して大きなことをすると夢見ていたのは、本当にすごいことだと思います。

あなただって自分の城を4畳半かも6畳の小さな部屋かもしれません。でも自分が考えていることはいくらでも大きく広げていける。強い思いから発しているクリエーティブなことは世界中に伝わっていくものです。

現在の若い人は、例えば絵を描くなら油絵の具が必要だとか、仕事に最新の機器が欲しいとまず条件をそろえてもらおうといったことをします。でも牢獄に捕えられている囚人は、どうしても何か描きたいとなったら、鉛筆一本さえなくても自分の爪で壁を引っかいて描き始めるでしょう。それほど人間が持つコミュニケーションの欲望はすごい。だれもが人にコミュニケートして、何かしようという思いを持っているものです。

ジョージ・ハリスンが「仕事は非常に大事なもので、幸福も自分にくれる。だから神聖なものだ」と言っています。私もまさにそうだと思います。仕事の中に自分の夢を見る、その光を抱き続けてください。

(オノ・ヨーコ 2013年1月6日朝日新聞朝刊「仕事力」)




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