2013年1月27日日曜日

仕事こそ神聖なもの(オノヨーコ)

あなたの力をずっと何かに役立てる

私は、「仕事が自分の人生だ」と考え、できるだけのことをしたいという気持ちで生きてきました。しかし人は、自分が続けようと思っている仕事を途中で断念しなくてはならない時、とても苦しくなります。仕事があるから心も体も丈夫でいられるし、意に沿わない仕事をすると体に響く。それくらい人間にとっては大切で神聖なものです。

特に日本人はその感覚が強い。日本人は食事をしていても、歩いていてもどこか瞑想しているような資質があるように思いますが、働くことも、深く静かに生きることにつながっているように見えます。アメリカ人はお金を払ってメディテーション(瞑想)を習います。でも私たちには既にあった。それは、時間で労働を売るのとは違う、日常に根差したきめ細やかな仕事観ではないでしょうか。

世界では日本のことを、小さな島の国だけれど国民は頭が良く勤勉で、戦禍にあっても大災害を受けても、やがて必ず立ち上がって大きな力を取り戻す国と考えています。それは今まで一人ひとりが何かの役に立とうと努力してきたからですね。一生懸命に野菜やお米を作ってきたお百姓さんや、工夫に工夫を重ねた名もない技術者が、自分のできることを貫いてきた。

若いあなたも、ぜひ自分の力を見つめ直して欲しい。私が、「クリエーティブな視点を持て」と皆さんに提案するのは、「どんな小さなことでも自分を役立てられる仕事」をいつも探していこうと伝えたいからです。

認め合いましょう。違いを、優れている点を。

つい先日、ニューヨークタイムズ紙で面白い記事を読みました。今まで、母親と胎児の間にはとても強い力があることは知られていましたが、父親はほとんど関与していないと思われていましたね。ところが新しい研究では、父親が考えていることや、母親に話しかけたことまでが全て退治に届いているから、妊娠中の父親の存在が大事だと分かったそうです。

どちらか一方が、一つの役割をすればいいいというものではない。その証拠が出てきたということでしょう。それは仕事にも言えます。男性だけが仕事に秀でているわけではない。それどころか女性が優れた能力を発揮する場も非常に多い。何より仕事は、女性にも神聖な喜びをもたらすもので、私たち女性は働くことが大好きなのです。

だから、家事と育児に追われる主婦の立場を見て育った女性たちが結婚しなくなり、子供を産まなくなり始めましたね。まるでみんな一緒に「産まない」選択をしている「沈黙の革命」のようです。家庭での男性の大切さ、仕事での女性の大切さ。それを本気で認め合う時が来たのではありませんか。

私の夫のジョンレノンは、息子のショーンを育てたいと主夫になりました。英国の保守的な環境で成長したジョンには、葛藤のある決断だったはずです。でも、自分にできる新しい役割を見つけ出したことは、とてもクリエーティブな生き方だった。

あなたも、自分を愛して、自分らしさを信じて、小さなチャレンジから踏み出して欲しいと思います。

オノヨーコ 朝日新聞 仕事力

夢を書き出しなさい(オノヨーコ)


自分を掘り下げる
意識を忘れない

 人間は幸せになるために生まれてきます。では、その大切な一人であるあなたが求めてやまない幸せは、どんなものですか。そして選んだ生き方はその延長線上にありますか。かつて出版した『グレープフルーツ』に私はこういう言葉を記しました。

 「書き出しなさい。/あなたがしようとしていることを、ぜんぶ。/それを誰かに見せなさい。/あなたがぜんぶやり終えるまで/そのひとを眠らせなさい。/できるだけながく/時間をかけてやりなさい。」

 世の中の状況や価値観はどうであろうと、あなたが志していることを自覚する意識が大切なのですね。漏らさず書き出し、時間の制限を受けずに実現する、という生きていく指針を探して欲しい。それから、同じ本に記した、自分に気づくことを示唆する言葉。

 「出入りする小さなドアをつくりなさい。/出入りするたびに、あなたは/かがんだり、縮んだりしなければならない。/これはあなたに/あなたがどのくらいのサイズなのか/出ること、入ることとは何か、を/気づかせてくれる。」

 これらの言葉を記したのはもう半世紀も前のことです。私は30歳前後でした。すでに平穏な人生ではなく、自分の仕事の展望にもプライベートにも確かな見通しはありませんでした。現在のあなたと似ていますか? ただ一つ問いただしたのは、「自分らしいか」ということでした。どんな時でも自分らしくいることが私には一番大事でした。

 その後の人生で私は、ビートルズが解散する要因になったなどと、世界中からいわれのない非難を浴びる状況も経験し、ジョン・レノンが亡くなった後も長くつらい時間がありました。それでも、自分らしさを諦めたことはなかった。社会や周囲の要求に合わせた生き方では、どうしても心が弱くなりますが、自分らしくあり続けるその一点で強くいられたのです。

あなた自身を頼れ

 私たちが最も力を出せるのは、自分の希望で力を使っている時です。人に頼っている時には弱かったエネルギーが、自分を頼るようになると次第に強くなっていきます。私は、息子のショーンが、母である私を頼らず、自分の力で独立できるように育ててきました。母親としては寂しい思いもしますが、そうしなかったら現在の彼にはならなかった。

 昨年12月、日本での「Dream Power ジョン・レノン スーパー・ライヴ」に、ショーンが初めて参加すると自ら言い出したので驚きました。開始から数えて12年目に。その理由は2011・3・11の東日本大震災が強く彼のハートに響いたからだということでした。自分の年代と、その子どもたちが苦しんでいる。日本人でもある自分も、「一緒に立ち上がろう」という復興への強い情熱を伝えたいと行動したのでしょう。誰の思惑でもなく、自分の中から湧いてくるエネルギーでした。

 私たちが、自分の力を頼りに再興を考え、そのために行動する。それは国だけでなく、実は「自分を再興する」ことにもなるはずです。失望している時でさえも、チャレンジすることを書き出してごらんなさい。そう、あなたがしようとしていることを全て。そして想像してください。それが現実になっていくことを。(談)

オノヨーコ 朝日新聞 仕事力

昼休みのクリエーション(オノヨーコ)


若く苦しい時代にも
誇りを見つける

 私は、幼い頃から音楽や詩がとても好きでしたし、大学でも学びました。表現して生きる人生を当然と考えて育ってきたのです。でも真っすぐに自分の表現へたどり着いたわけではありませんでした。若い頃から、コンセプチュアルアート(概念芸術)の作品を何点か発表していましたが、それだけで食べていけるはずもない。

 長女が誕生した30歳の頃には日本に住んでいて、日本の映画を外国向けに吹き替える仕事や英語を教えたりして生活を支え、その後ニューヨークに戻ってからも、通訳や翻訳などできる仕事は何でも引き受け、幼い娘を育てながら、それでも創作への意欲は持ち続けていたのです。

 ある時期はエンパイア・ステート・ビルの中の会社でタイピストとして働いていましたが、お昼休みに仲間とランチを食べておしゃべりするようなことはありませんでした。その時間を惜しんで自分のクリエーションに集中し、隣の部屋の棚には、全て私の前衛アート作品が入っているほどだった(笑)。

 境遇は恵まれていなくても、大変な環境に置かれていても、それをクリエーティブに変えていくのは「誇り」という力です。人間は、誇りを持たなかったら駄目になる、惨めになる。でも、8時間の勤務時間のうちの昼30分間だけでも、エンパイア・ステート・ビルから、たった一人の秘書が発想するクリエーションは誇りでした。自分がやりたいことの火を消さずに実行すれば、私たちは前へ進んでいけるのですね。この世界は、そういう一人ひとりの有り様で美しくなっていくのですから。

常識というのは
誰のためにもならない

 限られた人生の中で何を選ぶか。それは、自分が面白いと思えることに尽きます。会社が有名だとか、給料が高いということであなたの心は生涯ときめいていられますか? もちろん、それが楽しくて仕方がない人はそこを突き進めばいいし、やってもやっても、エネルギーが湧いてくるかどうかが大切なのです。

 大人が、「やりたいことで食べていけるほど世の中は甘くない」と言って、一つの職業に固執し融通が利かなくなるのは、ただ臆病なだけではないでしょうか。例えば人生を大きく変えなければならない時、女性はそこへ飛び込む大胆さと順応性を持っています。大人たちは、若い人のためにも、今までの常識を押しつけるべきではないし、若い人は既存の型に自分を合わせる必要はないのです。

 社会にはかたくなな基準というものがあって、女性は優しく、男性は力強く揺るぎなくなどと言いますが、そんなふうに2等分されるほど、私たち一人ひとりは単純ではありません。気づいているのに常識に合わせて生きようとするのは、自分の生涯を大切にしていないからではないでしょうか。

 本当の基準は「自分が美しいと思った全ては美しい」ということ。根底にあるのは愛です。世界中の人が何とも思わなくても、自分は愛している。それが非常に大事であり、その基準を活(い)かして欲しいと思います。(談)

オノーヨーコ 朝日新聞 仕事力


2013年1月11日金曜日

準拠性監査


準拠性監査とは、既存の規程や規則に照らして現行の業務がその規程・基準に沿っているかを点検することであり、「検査」に近い概念である。
言い換えれば、既存の「検査リスト」に基づいて「淡々と」検査を行い、その検査結果を残せば監査業務は完了する。その検査結果が何を表しているかについての評価は検査の対象外である。

既存の規程や規則自体が有効なものであるかどうかの評価、あるいは、あるべき規程・規則が存在するか、存在しないかの評価も、準拠性監査の対象外である。


2013年1月6日日曜日

強い思い(オノヨーコ)

私たちより少し前の人々は、家族と子供の平穏を何よりも大切にして生きてきましたね。そういう人生だって、内情は波打つこともあったでそうけど、でも穏やかな一生を守ることが生きがいだったと思います。

けれども今は、広く世の中や世界をつながり、私たちには、もっと大きく、エネルギーの必要なチャレンジが与えられている。ただただいままでのスタイルに従っていくのではなくて、自分で何が大切かを考え、クリエーティブな試みをする時代になりました。仕事は多岐にわたるようになるし、こんなことをしなくてはならないのかと困難を感じる日々もあるかもしれませんが、そうやって私たちは新しい時代の要求を大事にし、一生懸命にチャレンジする喜びをもらえているのです。

もちろんそれは、多くの人間にとっては随分難しいと思います。きっと怖いはず。でも、その怖さを乗り越えていって欲しい。そのために一番最初にするべきことは「イマジン(想像)」なのですね。本当に大事なことをする時には、まず頭で考え、それをリアルな映像にして自分で繰り返し見てください。自分のハートの深い所にある思いを現実にするために、何度でも確かめ、そしてその夢を人と分かち合うのです。

「一人で見る夢はただの夢」だけれど、「みんなで見る夢は現実になる」。私もそうやって仕事を実現してきました。

英国のリバプールにはジョン・レノンの育った家が残っていますが、彼の部屋はわずか3畳くらいで、とても狭い小さな小さな部屋です。両親と離別して伯母さんに育てられ、寂しさや悲しさを感じていた少年が、その狭い部屋で、自分がいつか音楽を通して大きなことをすると夢見ていたのは、本当にすごいことだと思います。

あなただって自分の城を4畳半かも6畳の小さな部屋かもしれません。でも自分が考えていることはいくらでも大きく広げていける。強い思いから発しているクリエーティブなことは世界中に伝わっていくものです。

現在の若い人は、例えば絵を描くなら油絵の具が必要だとか、仕事に最新の機器が欲しいとまず条件をそろえてもらおうといったことをします。でも牢獄に捕えられている囚人は、どうしても何か描きたいとなったら、鉛筆一本さえなくても自分の爪で壁を引っかいて描き始めるでしょう。それほど人間が持つコミュニケーションの欲望はすごい。だれもが人にコミュニケートして、何かしようという思いを持っているものです。

ジョージ・ハリスンが「仕事は非常に大事なもので、幸福も自分にくれる。だから神聖なものだ」と言っています。私もまさにそうだと思います。仕事の中に自分の夢を見る、その光を抱き続けてください。

(オノ・ヨーコ 2013年1月6日朝日新聞朝刊「仕事力」)